グランプリ受賞:2019年ニッポンものづくりフィルムアワード

株式会社ニッポン手仕事図鑑が主催する「ニッポンものづくりフィルムアワード」。同社は、「日本の職人の技術や文化を動画として残したい、そしてそこから生まれる新しい繋がりが、やがてビジネスにまで展開していくサイクルが生み出せれば、技術や文化自体を残していくことに繋がっていくはず。そんな瞬間のお手伝いをしたい」という思いを持って制作活動を続けている動画・メディア制作会社。そのニッポン手仕事図鑑が、映像コンペを開催することとなった。尺は10分でテーマは「明日の“後継者”をつくる」90本を超える映像作品が、日本全国から応募され、第2次審査を通過したのが、52作品。STEQQIの映像も、その中の一作品として選定して頂き、東京で開催された授賞式に参加することになりました。

2019年9月25日

朝一のクライアントとの打ち合わせを終えたその足で、東京に向かうため大分空港に向かいました。授賞式のスタートは19時から。会場はホテル雅叙園東京です。授賞式では客席の最前列に席が用意されており、他の候補者と一緒に次々と紹介される応募映像を観ていきます。スクリーンで映像が放映された後、一作品ごとに審査員の方々が総評をしてくださる形式でした。

STEQQIの映像はなかなか流れません。すでに式の終わりが近づいていました。時間とともに緊張は高まるばかりです。そして、ようやく流れた私達の映像は、グランプリ作品として紹介されたのです。前年に設立したばかりのSTEQQIにとって、これは予想外の展開でした。


2019年8月7日

偶然ネットで今回の映像コンペの存在を知り、応募することを決めました。理由はいくつかありましたが、当時、ニッポン手仕事図鑑のサイトでは、大分県を題材とした映像は紹介されておらず、私たちはぜひ最初の一作品になってみたいという思いがありました。また、審査員が著名なディレクター、雑誌編集者、タレントの方々で構成されていたことから、この方々に自分たちの技術やスタイルを観ていただき、どんな評価をして頂けるのかを知りたいとも思っていました。

大分県を本拠地として活動している私たちです。地元の文化をもっと知りたい、深掘りしてみたいという気持ちは常にありました。まだまだ多くの知られざるストーリーが大分にはあるはずです。私たちは小鹿田焼もその一つだと思いました。

お電話でようやく約束を取り付けた私たちは、小鹿田焼 坂本工窯の坂本 工代表に初めて会いに日田市に向かいました。

山に囲まれた小鹿田焼の里は、聞いていた通り澄んだ空気と美しい自然に囲まれた場所で、唐臼の音が聞こえてきます。川の流れる山沿いにその集落はあり、携帯の電波なども届かない静かな場所でした。約300年前から一子相伝で陶芸技術を継承してきたこの村。3世帯でスタートした小鹿田焼の里は、現在は9世帯に。まさに私たちが描きたいストーリーが目の前にありました。

しかし待っていたのは、期待していたののは全く違う展開でした。インタビューをしようと坂本さんに声をかけると、「メディアのインタビューは、こちらは全部話しているのに、一部を切り取られて美しいストーリーにされてしまう。重要無形文化財に指定されていることもあって色々期待して来るのだろうけれど、実際はそんなに美しいものじゃない。もし、あなた達も今までの人たち同じように美しい小鹿田のストーリーを撮りたいのなら、あまり面白くないね。美しいストーリーなんてないんだから。」と仰います。

一瞬、その場が凍りついたように感じました。事前に構想していたストーリー構成もあっという間に崩れていきました。どうすれば良いのか。何か反応しなくてはなりません。顔を見合わせた私たちは、「もしよろしければ、小鹿田の現状をお話しいただけますか?美しくなくて大丈夫なので、そのままのお話を伺ってみたいと思います。」とお伝えしました。コンペ用の映像は取れないかもしれない。けれども、一旦自分たちの撮りたい映像を手放して、坂本さんの話を聞いてみることに決めました。


2019年8月22日

2回目の撮影日がきました。前日の台風の影響で、折れた枝が村に向かう道中のあちこちに散乱していました。天気は不安定なままです。午後には小鹿田の里でよく見られるスコールのような通り雨。時折り見せる太陽がやけに嬉しかったのを覚えています。数年前には水害もあった地域でもあるため、心配していましたが、今回の台風被害はそれほど深刻では無いと伺って少し安心しました。

いつも通り、この日も坂本さんは忙しくされていました。徐々にではありますが、坂本さんと私たちの間に流れる空気が変わっていきました。坂本さんのお人柄を私たちも感じる事ができるようになってきていたのかもしれません。小鹿田の里の他の窯元もご紹介くださり、撮影にご協力を頂けたりなんて事もありました。

思い切って坂本さんの息子さんの創さんにもインタビューのお願いをしてみました。このインタビューが大きく流れを変えます。創さんの語る小鹿田焼のストーリーはまさに、「明日の“後継者”をつくる」という今回のテーマにぴったりな内容だったのです。

カメラの目の前に並んで座る父と息子。親子とはいえ、それぞれ別の人間。それでも小鹿田焼を継承するもの同士、今日も昨日と同じように轆轤(ろくろ)を回します。交わす会話は最小限で、静かでゆっくりと時間が流れていきます。神聖な空間に身を置いているような独特な緊張感があったことを覚えています。300年前と変わらぬ作陶風景、変わらないからこそ注目される今と、変わらなければ、繋いではいけない小鹿田の未来。私たちは可能な限り同じ空間に身を置き、そのままの風景を切り取ることに集中しました。


2019年9月25日

授賞式に立つ今、私たちは坂本さんに最初にお約束した「美しいだけのストーリーではない」映像を撮ることは出来たと感じていました。

審査員の方が受賞者全員に共通して、映像の美しさとストーリー構成の技術を評価してくださいました。そしてSTEQQIについては、「やりたくてやっているわけではない」という、インパクトのある坂本さんの語りを使ってオープニングを構成した事で、視聴者が思わず映像に引き込まれてしまうこと、そして映像の中で、小鹿田焼の全体像を説明していない事で視聴者が、逆にもっと知りたくなる。そこが、他の作品にはない受賞の決め手となったとの総評をいただきました。

坂本さんとお会いした初日に予想外に迫られた私たちの方向転換は、結果私たちに今回の受賞をもたらしました。坂本さん親子にも心から感謝しています。また、通常はやらない事、他ではやってない事を、思い切ってやってみた先に見える景色があるという事も今回の受賞を通して学んだ事でした。


ニッポンものづくりフィルムアワード2019の詳細:

公式サイト:

https://nippon-teshigoto.jp/award2019

授賞式レポート:

https://nippon-teshigoto.jp/award2019/award2019-report